豊島区の空き家活用案に国土交通省が横槍
林田力
東京都豊島区が若者のシェアハウスや高齢者のグループホームに活用する条例案を策定したが、建築基準法にない新しい運用に対して国土交通省が横槍を入れた。豊島区は空き家活用、新築ワンルームマンション規制の先進自治体であるが、国土交通省が障害になっている。毎日新聞が報道した(斎藤義彦「<空き家転用>国交省、豊島区の条例案に「待った」」毎日新聞2016年5月28日)。***
転用する場合、空き家は建築基準法上「寄宿舎」とされ防火や間取りに特別の措置が必要となる。豊島区は延べ面積150平方メートル・2階建て以下の戸建て民家について、▽火災報知機設置▽2方向の避難路確保▽障害を持つ入居者への配慮−−などを条件に、寄宿舎でなく一般住宅とみなし使用を認める条例案を準備した。(中略)
だが区が今年3月に国交省に条例案を打診したところ、建築基準法の事実上の緩和策に「法を超える部分がある」と疑義が示され、区は条例案の今秋の区議会提出を見合わせた。
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豊島区は空き家活用の先進自治体である。豊島区では空き家実態調査を実施している。空き家実態調査では、調査対象地区抽出、現地空き家確認調査、空き家所有者アンケート、空き家所有者ヒアリング、立地状況図作成を実施した(「豊島区空き家実態調査報告書」平成24年3月、2頁)。
豊島区居住支援協議会は「豊島区内の空き家・空き室・空き店舗等の有効活用による住宅確保要配慮者への住まい及び居場所の提供の促進」を実施している。そのためのモデル事業として平成24年度に「地域とつながりをもちながら暮らしたい人のための居住支援事業」「障害があっても地域で暮らせる生活支援事業(多機能型ホーム)」「としまシングルマザーズシェアライフプロジェクト」を選定した。
世田谷区などで空き家を地域コミュニティー施設として活用した例があるが、住まいとしての活用は豊島区が進んでいる。江東区議会でも平成26年第3回定例会本会議2日目(2014年9月26日)に新島つねお議員が空き家活用を提言する質問で、豊島区の取り組みを紹介している。
豊島区は空き家活用の先進自治体であるだけでなく、新築ワンルームマンション規制の先進自治体でもある。豊島区は新築ワンルームマンション建設に対してデベロッパーに狭小住戸集合住宅税(通称「ワンルームマンション税」)を課している。これは希望のまち東京in東部が江東区議会に提出した「ワンルームマンションの規制強化を求める陳情」でも言及している。
空き家活用と新築ワンルームマンション規制は一貫したものである。日本で空き家が増えている理由は新築住宅がボコボコ乱立していることも一因である。古来より財政の要諦は「入るを量りて出ずるを制す」と言われます。住宅政策も入口と出口を考える必要がある。
このように考えると国土交通省の横槍は腹立たしいものである。寄宿舎の規制は貧困ビジネスの脱法ハウスが社会問題になったためであり、貧困ビジネス撲滅は意味ある規制である。この点は豊島区も対策を採っている。記事は「低所得者を集めて無届けで運営する業者の参入を防ぐため、認定制度を導入。所有者と運営者の安全確保への責務も明確にし、立ち入り調査権で悪用を防ぐ」と書いている。
国土交通省の横槍の腹立たしい点は既に愛知県で類似の制度が取られている点である。記事は以下のように書いている。「愛知県は2014年から要綱で、権限のある人口25万人未満の地域で、避難路確保などを条件に空き家を障害者グループホームに転用することを認めた。豊島区の条例案は大都市では初で、不足する高齢者グループホームも増やすはずだった」
障害者グループホームのような福祉目的への転用は良いが、若者のシェアハウスはダメというような若者に冷たい世代格差的な発想が国土交通省にないだろうか。
