『空き家問題 1000万戸の衝撃』
林田力
牧野知弘『空き家問題 1000万戸の衝撃』(祥伝社、2014年)は社会問題になっている空き家問題を取り上げた書籍である。著者は不動産コンサルティングに携わり、『だから、日本の不動産は値上がりする』などの書籍を出している。不動産が値上がりするという書籍を出した人物が空き家問題を語るようになったところに、日本の空き家問題の深刻な実態がある。空き家問題は危険空き家の撤去に関心が偏りがちであるが、それに本書は批判的である。所有者に空き家管理を要求し、違反者を罰するような強権的な方法は本質的な解決策にならない。本書はシェアハウスへの転用や減築など空き家の活用策も提言する。
このようにミクロの視点では大いに参考になり、共感できる。特に不動産が資産ではなく、使い道のない荷物になるという視点が不動産業界関係者から出たことは面白い。私が東急不動産消費者契約法違反訴訟で売買契約取消にこだわった理由も、ここにある(林田力『東急不動産だまし売り裁判こうして勝った』ロゴス社)。
但し、空き家が増えて不動産がコモディティ化しても、経済的事情から住まいがない住まいの貧困の問題は深刻である。この視点は本書に欠けている。市場原理で住宅を見る不動産業者の限界だろう。端的に言えば金のある人々だけを相手にした視点である。
一方でマクロの視点では人口減少社会に対応して道州制など選択と集中を提唱する。「上位計画から零れ落ちる家屋や住民に対しては、一定の保護や保証を与える一方で、ある程度の私権の制限についても考えていく必要がありそうです」とまで言っている(219頁)。これは地域で住み続けることを第一に考える立場としては賛成できない。
ミクロでは一致するが、マクロで対立する場合をどう考えるか。かつてはマクロのイデオロギーで陣営を色分けする傾向が強かったが、それでは一歩も進まない。今日の政治的無関心には単なる無関心を通り越えて政治は生活に何の役にも立たないという意識がある。ミクロの一致点を積み重ねていくことは有益であろう。