江東区議会で空き家活用議論
林田力
江東区議会・平成26年第3回定例会本会議2日目が2014年9月26日に開催された。ここで空き家活用について議論されたので紹介する。空き家活用を取り上げた議員は新島つねお議員(平和・くらしを守る江東の会)、赤羽目民雄議員(日本共産党)である。希望のまち東京in東部が提出した「若者の自立支援政策を目的とした区内の空き家の実態調査とそれに基づく施策策定を求める陳情」(26陳情第23号)とも問題意識が重なる。新島議員は空き家が大都市圏でも問題になっていると指摘した。統計では全国に空き家は820万戸もある。老朽化した空き家が危険家屋として課題になっているが、むしろ積極的に利用活用すべきである。そのために実態調査を実施し、政策として空き家の活用に取り組むべきことを求めた。豊島区などでの空き家活用の取り組みも紹介した。
山崎孝明江東区長は実態調査も活用も考えていないと答弁した。実態調査は総務省が5年毎に「住宅・土地統計調査」を実施している。現時点での最新情報は平成20年の調査で、江東区の空き家率は8.3%である。平成25年の調査結果が年内に公表される予定であり、その数値を参考にしたい。空き家の活用は区内で人口流入が続いているために実施予定はない。
コミュニティ施設としての利用は区の借り上げが前提である。施設のニーズを考え、慎重に検討する。不動産関係団体との連携は強める。空き家活用は地方を中心に定住促進の観点で進められようとしており、江東区も注視していく。
赤羽目議員は若者の雇用と生活支援についての質問で空き家活用に言及した。居室が極端に狭く、危険な脱法ハウスが社会問題になった。東京都政は都営住宅を全く作らず、単身者向けの住宅政策もしていない。若年層単身者を都営住宅の入居対象に含めるべきである。また、家賃補助を考えるべきである。空き家の実態調査を行い、シェアハウスに転用できる住宅は区の責任で斡旋すべきである。
ここでも山崎区長は実態調査も活用も考えていないと答弁した。都営住宅新設について、東京都は既存の住宅ストックの有効活用を図る方針である。都営住宅の入居対象を若年層に拡大することについて、生活保護受給者は現在も入居対象としている。家賃補助については、江東区は人口増加が続いているため、考えていない。空き家の実態調査は総務省の統計がある。江東区居住支援協議会では高齢者世帯への民間賃貸住宅あっせんを実施しているが、若年層にまで対象を拡大する考えはない。
空き家の実態調査と活用について質問者と江東区側で認識の齟齬が感じられた。総務省の住宅・土地統計調査は統計値に過ぎず、全体の何パーセントが空き家であるということしか分からない。現実に豊島区では住宅・土地統計調査では把握できないとの認識の下に空き家の実態調査を実施している。
「空き家の総数やその構造等は、住宅・土地統計調査により把握できるものの、空き家発生の原因やその対策を検討するための基礎的な情報は、各種統計調査で詳細に分析されておらず、把握することができない状況にある」(「豊島区空き家実態調査報告書」平成24年3月)。
また、住宅・土地統計調査の信憑性への批判もある。「筆者が住む世田谷区でも出身地である福岡県築上郡でも、7軒に1軒が空き家であるという実感値は全くない」(宗健「空き家率の推定と滅失権取引制度」2014年7月28日)。実際、平成20年住宅・土地統計調査によると江東区の空き家率の低さは特別区で2位である。逆に空き家率の高い特別区の1位は千代田区で、2位は中央区である。これは直感に反しており、実態調査が望まれる。
空き家活用についてもギャップがある。山崎区長は「東京都は既存の住宅ストックの有効活用を図る方針」と答弁した。それならば空き家活用が求められる。
江東区は人口流入が続いているが、それは若年層単身者向け住宅政策が不要ということを意味しない。余裕のある人が江東区に移り住んでいることと、江東区内の住まいの貧困の有無は別問題である。江東区に移り住む人が増えている一方で、住まいの貧困に苦しむ人も多いことが実態である。この本会議2日目では関根友子議員(公明党)が生活に困窮している区民への自立支援策、中村まさ子議員(市民の声・江東)が子どもの貧困対策を質問した。区内の貧困問題の存在を示している。
国土交通白書でも住居費負担の高さを指摘する。「可処分所得に占める家賃の割合は増加傾向にあり、1989年から2009年にかけて、40歳未満の単身の男性で12.4%から19.9%に、40歳未満の単身の女性で19.0%から24.7%に、世帯主が40歳未満の二人以上の世帯では10.5%から14.9%に上昇するなど、特に単身世帯での住居費負担の高まりが見られる」(『国土交通白書2013』「第2章 若者の暮らしにおける変化」)
雇用が不安定な低所得者の若年層は勤務地が不定の方や交通費の出ない方も多い。そのような方こそ大手町や銀座に自転車で行くことも可能な江東区に住むメリットがある。ここに江東区が若年層向けの空き家活用を行う意義があると考える。
また、答弁ではコミュニティ施設としての利用は区の借り上げが前提としたが、これも前提ではない。世田谷区や豊島区の空き家活用では民間団体主体の活用である。その点で江東区答弁の「不動産関係団体との連携強化」は一つの方向性になる可能性がある。
希望のまち東京in東部では過去に江東区長、葛飾区長、足立区長に空き家の活用を求める陳情を提出したが、葛飾区回答は「空き家(部屋)の利活用につきましては、宅建団体との情報共有を図っていきたい」とあった。これは江東区回答にはなかったもので、この記述がある分、葛飾区回答の方が前向きと評価していた。新島議員の質問で上記答弁が出たことで、希望のまち東京in東部陳情の江東区回答から少し前進した。
一方で希望のまち東京in東部陳情の江東区回答から後退した点もある。都市整備部住宅課長回答(2014年8月1日、26江政広第1253号)は江東区居住支援協議会について「この団体の取組として、現在、「高齢者世帯への民間賃貸住宅あっせん」を実施しておりますが、若年層の住宅確保要配慮者に対する施策については具体的な協議課題とはしておりません」としていた。
これは現在実施していないだけで、これからどうするかは何も述べていない。ところが、赤羽目議員質問への答弁では「若年層にまで対象を拡大する考えはない」と今後の可能性も否定した。