『空き家は使える!戸建て賃貸テッパン投資法』マンション投資はハイリスク
林田力
サーファー薬剤師『空き家は使える!戸建て賃貸テッパン投資法』(技術評論社、2015年)は地方の戸建て住宅を対象とした不動産投資の魅力を説明した書籍である。ワンルームマンション投資の迷惑勧誘電話が消費者問題になっており、不動産投資の推奨本に対しては眉唾物ではないか警戒する必要があるが、本書は地方の戸建て住宅を対象とすることで健全性を保っている。以下のような真っ当な指摘もあり、ワンルームマンション投資の迷惑勧誘電話とは全く異なる。「これから不動産投資を始めるという方には、いきなり大きな負債を背負うことはおすすめできない」(36頁)。また、本書は空き家を入手して賃貸物件にすることも述べており、空き家活用という社会政策にも合致する。スクラップアンドビルドの開発優先とは真逆である。本書は「アヤしい業者の誘いにのってはいけない」とも書いてある(116頁)。
むしろ本書を読めばマンション投資は避けるべきとの結論になる。大家業にとって賃借人からの「隣の入居者がうるさい」は手間がかかる問題であるが、戸建てならば隣室トラブルは格段に減少する(39頁)。集合住宅は物件数が多く、過当競争になる。これから空き家は益々増えるが、相続税対策などの要因で集合住宅は増え続ける。このために戸建ての方が空き家増加に対抗できる(32頁)。
本書ではRC物件には手を出さないとまで言い切る(43頁)。マンションは管理費・修繕積立金がかかる。この指摘は正しい。特に新築マンション投資の恐ろしいところは、管理会社が分譲会社の系列子会社になることである。自動的に系列子会社が管理会社になるために良い管理をするというインセンティブが働かない。高い管理費で大家の犠牲の下で自社の利益を確保する傾向がある。
本書は「管理会社経由でリフォームを発注する場合、管理会社にリフォーム業者からバックマージンが入っていることがある」とも指摘する(178頁)。バックマージンの分、大家は割高な取引をさせられる。
不動産投資が他の投資と比べてリスキーである理由は、莫大なローンを組むことが多いためである。このために不動産投資家の自己破産の危険性も他の投資以上に高くなる。本書はローンの借入先として日本政策金融公庫を勧める。日本政策金融公庫は中小企業支援などを目的とした金融機関であり、融資を受けるためには事業計画書などの提出が求められる。これは、不動産投資は事業をやるという覚悟で取り組む必要があることを示している。株式投資などの感覚とは異なる。逆に株式投資のような感覚で購入すると不動産投資は失敗するだろう。
本書には実際の物件購入記も掲載されており、実践的である。業者指定の司法書士事務所を使って登記すると通常の倍以上の費用を請求されたという気付きにくい指摘もある(76頁)。この物件購入記では大半の物件を大胆な指値で購入している。売主に早く売却したいという切羽詰まった事情があるためである。ここからは不動産を持つことのリスクを実感した。本書の視点とは異なるが、売主の立場では不動産は売りたい時に価値にあった金額で売れない「お荷物資産」となる。
この点はオーナーチェンジ物件に対する説明でも当てはまる。本書はオーナーチェンジ物件を「初期コストが抑えられるから、少しばかり割高で買ってもいい」と考えることはやめたほうがよいと指摘する(108頁)。オーナーチェンジ物件は内見ができないというデメリットがある。このために購入時の賃借人の退去時に予期せぬリフォーム費用がかかるというリスクがある。故に買い手の立場ではオーナーチェンジ物件の購入は慎重にとなる。
これは売り手の立場ではオーナーチェンジ物件は売りにくいとなる。不動産投資でうまく家賃収入を得られなければ売りに出せばいいという考えがあるが、そのようにはならない。安く買い叩かれる。著者の意図とは逆になるが、不動産投資は売却時に安く買い叩かれる覚悟がある人のみ取り組むべきとの結論も導き出せる。これは本書の欠点ではなく、フェアで良心的であることを意味する。不動産投資を煽るだけの類書とは一線を画している。
