林田力

書評『コミュニティ・デザインによる賃貸住宅のブランディング―人気シェアハウスの経験価値創造』

林田力

長沢伸也、小宮理恵子『コミュニティ・デザインによる賃貸住宅のブランディング―人気シェアハウスの経験価値創造』(晃洋書房、2015年)はシェアハウスなどコミュニティ重視の賃貸住宅の価値を分析した学術論文である。学術論文のためにとっつきにくいところもあるが、一般の学術論文と比べれば、はるかに読みやすい。

シェアハウスは古い不動産業界のあり方から脱却する可能性を持っている。新築偏重という価値観から脱却する。「古くても価値がある。『古いから』、価値がある。そんな賃貸住宅が増えていくようになれば、日本の未来は、もしかすると今よりもっと住みやすくなるのかもしれない」(131頁)。

空き家の増加が問題になっているが、シェアハウスは空き家の活用にもなる。「不動産業界では空き家対策の一環としても、シェアハウスに注目が集まっている」(24頁)。シェアハウスはターゲットが明確であるため、街の不動産屋を通さずに募集をかけているという。不動産仲介会社の存在意義が問われている。

一方でシェアハウスのブーム化にも一抹の不安がある。ゲーテッド・コミュニティー化への不安である。シェアハウスは良質なコミュニティの維持を重視するために入居審査が比較的厳しいものが多い。シェアハウスは人とのつながりを求める場であるが、排除と選別の場になる危険もある。

現実に既存の賃借人を追い出して建物をリノベーションし、賃貸住宅の「価値」をあげようという動きもある。住民に開かれ、地域に貢献する存在になれるか。業者の人道性が問われる。本書で取り上げたシェアハウス事業者は「周りとはちゃんと繋がっています」と語っているため、問題ないだろう(150頁)。しかし、シェアハウスが不動産業界のブームになれば安易に便乗する心得違いの業者も出るだろう。

本書はシェアハウスの建物の建築家へのインタビューも収録されている。建築に際して「東西南北だとか方位だとか、山の傾斜の問題だとか、そういうものをまず基本に考えよう」と述べている(140頁)。建物の説明には「天地四方、見えないエネルギーが集まる」との表現もある(141頁)。ここからは風水を連想する。近代合理主義の見直しが過去の知恵と親和性を持つことは納得できる。ニセ科学批判者のような偏狭な科学至上主義にはない豊かさがある。

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